小説 「赤門会学生の生活 一般コース編」




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小説 「赤門会学生の生活 一般コース編」

1時間目 : 決定の時間

特に天気が良かったあの日。風と花びらが舞い落ちる春の真ん中。
“母さん、俺、日本に行きます。”
いつもどおりの普通な風景の中で、今日会社であったことを話すように淡々と話を始めてみた。好きなドラマを見ていた母親は、なんの予告もない報告にも落ち着いて話を続けた。
“今度は誰と行くの?”
“当然一人でしょ?誰って、誰?”
“一人で?”
一人であちこち行くのが大好きな息子だとしても、海外にも一人で行くとは思っていなかった母親の目線がこっちに向いた。テレビの音が小さくなった。
“どのぐらい行くの?”
“えと、1年ぐらい?”
“1年って、そんなにどんな旅行へ行くの?今何の話?”
ああ、旅行と思われたんだ。
もう一度、気を取り直して、ゆっくり、話をまとめた。
“1年ぐらい、日本に留学に行きます。もう入学金も出してしまいましたから。”

そのように、家族にとってはいきなりかもしれない留学準備が本格的に始まった。また学生に戻ることに対するときめき、日本という国に対する好奇心、これから会う人たちに対する期待……。もちろん、心配も、不安もあったがどうでも良かった。
特に天気が良かったあの日。母親に殴られた背中が少し痛いけど、私にとっては新しい何かが始まる日だった。


元々日本には関心があった。あのアニメのやつめ、高校の成績急落の犯人は日本のアニメだった。(特にガンダム。)おかげで、別に教えてもらったことはなかったけど基礎的な会話はできるような気がするが、実際に使ったことはない。
世間並みに大学に通って、適当な職場に就職をした。趣味活動も、貯金もできた。このまま落ち着いたら、地下鉄の駅でよく見る普通な会社員になれるだろう。そんな気がした時から、自分がしていることがつまらないと感じた。
日本留学を思ったのはあの時だった。高校から見てきた数多くのアニメ、そんなアニメを作る国に行きたいと思った。同じことなら日本語も勉強しておくために、旅行より留学の方を選んだ。
“先輩、俺会社辞めて日本で留学しようと決めました!”
決定する前に、会社の仲間たちに聞いてみた。
1.“日本?いいね。そこで就職でもするの?”
―>日本語勉強と一緒に就職を目指す人も多いと言われた。
2.“そこ、地震とかたくさん起きるから危なくない?”
―>地震起きたら韓国の方がもっと危ないかも。
3.“なら日本の女と付き合うの?”
―>あ、この人ダメだ。
……いろいろな反応があったが、その中で部長の話に留学を決めた。
“少しでも若い時に行きなさい。どうせ、人が暮らす様はだいたい同じだから、いたずらに心配することもないよ。”

準備はそんなに難しくなかった。ネットを通じて留学院を知って、<赤門会>という学校に推薦を受けた。規模も大きくて、日本での就活のためのビジネスコースがかなり人気があるそうだ。その影響で、一般的な語学教育プログラムもほかの学校と比べ差別化されている。そして学校が東京にあることも、日本に初めてくる外国人には大きなメリットになるらしい。(何よりも秋葉原に近い。)
書類も、ビザも、寮も留学院が手伝ってくれたので楽に準備ができた。書類などを待つ時間も必要なので出国は秋と決めた。その間、初めて大使館も行ってみて、同じ留学生と会える時間もあった。親しんだ会社の仲間との別れが少し残念で、学費で大金が抜け落ちるのが心苦しかったが、少しずつ日本に近づいている感覚に毎日が楽しかった。

時間は流れ、10月になった。夏の爽快感より秋の穏やかさが色づいたその日、家族と挨拶を交わしながら日本に出発した。
“体気を付けて。風邪とか、事故とか。”
“そっちの話ですよ。母さんも気を付けて。”
心配と期待が混じった出発。いつも遠く感じた隣国での生活が、今、始まる。

2時間目 : 適応の時間

正直、日本留学を決める時一番心配になったことは言語だった。私だけでなく、大部分の外国人も同じだと思う。日本語を学んだこともない、留学を決めた後にひらがな、カタカナを覚えたぐらいで、アニメのセリフだけでは何か恥ずかしくて自信がない。
“兄貴、これ、どんな漢字か知ってます?”
“ええ……、辞書、辞書はどこだ”
留学院で仲良くなった友人たちと一緒に電子辞書で探しながら東京に向かった。知っている漢字は何とか意味を類推できたが、いくつかは日本語ではなく暗号文ではないかなと思われるくらいだった。
“ここでバス乗ったらオーケーだって。”
でも、大きな問題はなかった。日本人は思ったより親切で、道はあまり複雑ではなかった。東京に走っているバス内でやっと余裕ができた私は、韓国より低い建物ときれいに片付いている道路、左側で走っている車を見て、やっと日本に着いたことを実感した。

赤門会日本語学校は想像以上に良かった。それぞれの国に担当職員がいて、案内や問い合わせも心配なかった。授業は学生の立場を配慮してくれるプログラムで、随時行われるレベルテストを通じて体系的に学生を管理していた。
もちろん、
“テストと、課題と……。確かにまた学生になった気がするけど……何かいやだな。”
“うん、同感です。”
かなり厳しく進行される授業日程と課題によって、ちゃんとしないとほかの学生に置いていかれてしまう。余裕な学校生活やあちこち遊びに行くような気分を期待したが、ここは嫌でも勉強させられるようになる所だった。
“今週末、予定ある?”
“課題。”
“は……。テスト終わったでしょ?遊びに行こうよ。”
そういう余裕な気分を求める人は私だけではない。同じ国籍同士はもちろん、いろいろな国の人と交流ができるので、テストが終わったとか、イベントがあったら時々招待される。
“そう?どこ行くの?”
“お台場、ガンダム見に行く。”
“行く!絶対行きます!”
たぶん、課題はその晩に終えたと思う。

学校は東京近郊の日暮里にある。お台場までは30分くらいかかるそうだ。途中に乗り換えがあるので交通費がかかるが、アニメのせいで日本まで来たのに交通費はどうでもいい。
“……って、行くのは二人だけか。”
“あはは、そうだね;;”
日本は雨がよく降る。たそがれも韓国より早いので雲が多い日には午後3~4時になると空が暗くなる。その日も雲があって、すぐ雨が降り始めるような天気だったので、皆こなかった。
“しょうがないね。行こう、二人でデートでもしよう。”

単純にガンダムを見るために来たお台場だが、ほかにも面白いのはたくさんあった。
“あの漢字、読み方知ってる?”
“知らない。”
“……少しは悩んでくれる?”
全てを理解するのは無理だったが、雰囲気だけで、もしくは外国人向け案内文を見ながらあちこちを歩き回った。フジテレビ放送局には観光客用コースが別にあって、その前では初めて見るアイドル(すみません。)が握手会をしていていた。少しずつ雨が降り始めたけどお台場の海があるその風景は、意外に、雨となかなか似合って、遠くからとあるバンドの歌声が適当に騒がしい程に聞こえた。そして……。
“日本に来て良かった……。”
目の前にあるガンダムは、確かにネットで見たものと何かが違った。なぜか分からないが、少し感動したかも。
“写真撮ってくれ。”
“……何でこっちが恥ずかしいかな……。”
たくさん写真を撮って、時間が過ぎ、ガンダムが動くところまで見た後に足を動いた。かなり長い距離を歩いたけどまた元気になるような不思議な感じがした。
“どこ行こうかな~”
“……残念だけど暗くなったよ。そろそろ帰らなきゃ。”
気が付いたら時間がけっこう過ぎていて、明日の日常のために帰ろうとした。まだ学校の周りにも行きたい所があるが、ネットだけで見えなかったこと、韓国と違うその風景にまた日本にいることが実感された日だった。
“今度はちょっと遠くまで行ってみようかな。”
大阪とか、行ってみようか。

3時間目 : お休みの時間

私は高校の時から遠足があまり好きではなかった。理由は簡単。乗り物にすごく弱い。遠足は普通遊園地で、男子高校だった私の友だちはまるで化け物みたいに乗り物に乗った。私は乗り物どころかバスさえ長く乗れない体質なので、遊園地に行ったら木の下で本や漫画を見たことが全部だった。むしろ学校の裏山がもっと良かった。
そういう意味で、初めは学校で準備してくれたバス遠足がただ嬉しいとは言えなかった。
“遊園地もないし、涼みに行くんだから、大丈夫じゃない?”
“そうだね……。授業がないことで満足しなきゃ……。”
日本に旅行に来たこともなく、学校と日本生活の適応のため遠くまで出たこともない。ということで今度の遠足で期待することもある。
“天気はいいかな。”
“たぶん?”
確か、テルテル坊主って、こんな時に使うものだったっけ。

赤門会日本語学校では半期に一回、新入生のために遠足を計画してくれる。目的地は江ノ島。静かで景色がいいところと言われた。バスで1時間30分から2時間ぐらいかかるそうだ。行く間にほかの観光地を経由し、そこである程度自由時間を持つ、典型的な方式の遠足だ。
朝早く、学校でバスに乗った。久しぶりのお出かけ、会って1ヶ月しか過ぎなかったけど仲良くなったクラスメイトたち、雲一つもない空の組み合わせで出発前から私たちはうきうきしていた。
“初めはどこ?”
“鶴岡八幡宮……、と書いている。神社みたい。”
“日本はお寺とか神社ばかりだって。”
多神教の日本だけに、日本旅行でお寺や神社のことは欠かせない。宗教に関心がない人としても、日本だけの文化や建築様式の視点で見たらそんなに悪くない。
“では、出発いたします。”
楽しい始動音とともに、少し特別な一日が始まった。

鶴岡八幡宮を初めに高徳院、由比ガ浜の海辺を経由する予定で、全てが初めて聞く所だった。クラスの中でも私と同じ状況の人が何人かいたが、何か調べた人は一人もいなかった。やはり、皆友達ですよね。
予想どおり、鶴岡八幡宮は神社だった。11月のもみじは神社の赤色と咲き乱れ鮮やかな秋を誇っていて、ちょうど日本の伝統行事の<七五三>の日で、着飾った子供たちも見えた。韓服とは違う深みと子供たちの色白な顔で、都内では見かけない日本らしさが感じられた。後に行った高徳院の大仏はその大きさだけでも見る価値があって、とあるドラマの撮影地という由比ガ浜の海辺の風は、空と触れ合う海と一緒に私たちを主人公みたいに作ってくれた。予想以上の自由時間に“時間残るかも。”と心配もしたが、充実した時間を過ごせたことに対してこっそり驚いた。
そしていよいよ最終目的地の江ノ島。
“2時間後にバスに集まってください!”
外からすぐに感じられる海のにおいと一緒に最後の観覧が始まった。平日にもかかわらず観光客は多く、見どころも多かった。
“えっ、あのキティの店!前に来た時にはなかったのに!”
“この、たこせんべいうまい!”
今まで経由したところが静かな雰囲気と風景を楽しむところだったら、江ノ島は町と人の活気が感じられるところだった。展望台までの階段が少し面倒だったが、一歩ずつ歩くたびにどんどん広がる青い海の様子は今までの旅とは違う新しさを与えてくれた。
“いいね。”
“うん、晴れて良かった。”
“ほら、えびせんべいもうまい!一口食べてみる?”
“……お前、それいくつめ?”
クラスメイトたちは疲れた気もないか休む間もなく話を続けていた。その話のキャッチボールに私も口を合わせながら混ざった。びっくりするほどの何かがあったというわけではないが、こんな小さな楽しさ、安らかさだけでも遠足は良かったと思う。

帰るバスの中は意外に静かだった。けっこう歩いたせいで、皆休らかな寝息を立てながら休んでいて、窓の外はもう暗くなった。明日からはまた、いつもどおりの日常が始まる。でも、昨日とは違う気分で朝起きられる、そういう気がする。

4時間目 : 振り返る時間

12月になってバイトを始めた。まだ初級の日本語が心配だったが、こういう留学生の事情を理解して雇用する店もけっこうあった。留学生を希望する求人広告が学校に掲示されていて、自分の国の担当職員から案内してもらうこともできそうだ。いつも貧乏な留学生として生活費を稼ぐことはもちろん、実際に使われる日本語を身につける機会にもなるので、短い時間でもバイトをする学生は思ったより多い。
“お疲れ様です。お先に失礼いたします。”
体が少し疲れるが、学校で学んだことを直接使ってみることで日本語に対する自信もついてくる。……正直に現場では業務より日本語に関する問題がもっと多いので、自分が苦しくて勉強することになる。自ら勉強をするなんて、ありえない。

ピンポン-

久しぶりに鳴った時計……、いや、携帯。クラスメイトからのメッセンジャーだった。

(バイト終わり?)
                                 (うん。)
(今、他のやつと話し途中に)
(忘年会の話が出てさ)
(来週に忘年会とかどう?)
(冬休み前に)

日本語学校も一応学校だから休みがある。そして休みになると本国にしばらく帰る学生も多いので、お互いに会いにくくなる。
                      (いいね、明日、また話そうよ。)

世界どの国でもそうだと思うが、日本は特に年末にイベントが多い。こんなにたくさんお寺と神社があるのに11月末ぐらいから駅前にはクリスマスツリーが建てられ、年賀状やお土産関連商品が陣列される。1月初めからは連休で大体の店が営業しないといって、そのせいかは分からないが12月の繁華街は深夜までも人が多い。
学校も冬休みを準備していた。帰国する学生を調査、一学期を一緒にした皆と記念写真も撮った。短期留学生で今期を最後に帰国する学生もいるので、教室はあいまいな緊張感が維持されている。完全に緊張が解けない理由といったら、
“テスト、どうだった?”
“うん、私が日本語を片思いしている感じ。日本語は私のことが嫌いそう。”
“……お前は?”
“俺は漢字が体質的に合わない。”
休み直前の期末テストで‘まだ’学生の身分を実感している。
“で、忘年会はいつ、どこ?”
“終わりの日、池袋。”
“みんな来るかな。”
“次の日が出国じゃなければほぼ集まるかも。”
思ったよりクラスメイトたちの反応が良かったみたいだ。普通一緒に食事することとあまり違わないはずの忘年会だが、休みと年末という状況が私たちをうきうきさせているのではないかな。
日本の町のように、学校の冬休みのように、私たちも年末を準備している。

“では、体に気をつけてください!”
先生の一言を終わりとして休みが始まった。課題の存在でただ気分がいいとは言えないが、しばらく朝寝坊しても大丈夫ということだけでも幸せだ。クラスメイトと挨拶も交わした。留学生活を終えて帰国する人もいるのでけっこう長い時間教室に残った。前のことは分からないが現実的にまた会えるのは難しいかな。でも、これも縁だから。元気に過ごしたらいいなと思う。
忘年会は夕方。皆家に帰ってまた集まることにした。外国で初めて迎える年末の期待は自然に鳴り渡るクリスマスキャロルと町の楽しい雰囲気に染み込んで、その雰囲気は忘年会にも続いていた。
“皆、お疲れ様!メリークリスマス!”
状大なパーティーはないけど、私たちはまだ慣れてない日本語で、時には自分の言語で笑って、騒ぎながら忘年会を楽しんだ。最近行ったゲームセンタやパスタの店の話から休みの予定、来年の計画まで。学校生活とバイトで話せなかったことを思い切り話した。
“君は来年どうするの?”
“俺、父と母と話してみて、ここでビジネスクラスを目指してみようかなと。”
“日本で就職したい?”
“うん、ちょっと住んでみたらそれも悪くないなと思ってさ。”
“意外だね、君は?”
“僕はたぶん、1年はもっと勉強する方がいいじゃないかな。今のバイトも面白いし、まだ学生の方がいいよ。”
好奇心で渡ってきた外国が思ったより気に入った人も、今の生活をもっと楽しめたいと思う人もいる。それぞれの方向や目的は違うけど、少しずつ前に進んでいた。
“お前は?”
“私はさ……ちょっと考えてみる。”
軽いため息とともに残ったビールを飲んだ。悩みができたが、韓国と違って複雑だとか、難しい感じはなかった。

あまり雲がなかったおかげで、帰り道の夜空はまるで黒い画用紙だった。街路灯の光を鉛筆としてこれからのことを描いてみた。思ったより良く描けなかったけど、ときめきと期待が混ざっている何かがかすかに見えた気がする。
日本に来て3か月。まだ仕事をやめて選んだ留学は悔やまれない。夜空の絵に雲がある日も、雨が降る日もある。でもすぐ晴れるから。今日まで私にとって日本は、自分が努力したことに対しては確実に答えてくれる国だった。これからも何か得ることがあるだろう。


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