教師の新たな気づきは学習者によってもたらされる
カテゴリ:日本語教育
現在、中級後半の留学生クラスを受け持っています。
先日休み時間に質問されました。
学習者「先生、これ、鳴るっていう意味ですよね。」
私 「ん?」
教材の中に「今、ピンポーンって言わなかった?」という文が出てくるのですが、この「言う」の用法が引っかかったというわけです。
「言う」の原義は「思っていることをことばで表す」ですが、多義語なので、他に「名詞の後ろに『と』を伴ってつき、名前を示す」、「『という』という形で文末につき、伝聞表現になる」など、さまざまな用法があります。慣用表現で「学歴がものをいう」なんていうのもありましたね。
長年日本語教師をやっていると多義語の用法をそれぞれ整理して、必要なときに「頭の書庫」から引っ張り出してくるのですが、この項目は「未収録」でした。今回恥ずかしながら、初めて収録させてもらいました。
この学習者には「鳴る」を使ってもこの場合は問題ないが、日本語ネイティブとしては「鳴らなかった?」より「言わなかった?」の方が無意識で口から出やすいこと、「今、チャイムが言わなかった?」のように擬音語なしでは使えないことを伝えて1分程度で質疑応答の時間を終えました。
ことばの意味用法が増えていく過程を「意味の拡張」といいますが、何かしらの比喩がからんでいます。この「言う」はものの音をことばとして扱う過程で「言う」が「鳴る」の領域に入り込んだ(まあ、そもそも擬音語自体がものの音を言語音に擬しているのですから)のでしょう。
よく日本語教師が使っている文型辞典にはこの項目は収録されていませんでした。国語辞典を見てみますと辞林や明鏡にもこの項目はなく、広辞苑にはありました。
H.M.